18/02/28
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新春互礼会・特別講演会のご報告

  2018年2月2日(金)の新春互礼会・特別講演会において、アイリスグループ会長 大山 健太郎 氏 にご講演をいただきました。その講演の模様を掲載いたします。
  
          演題 「アイリスオーヤマのユーザーイン経営」アイリスグループ会長 大山 健太郎氏
~ 小さな町工場を継承した大山会長が売上高4000億円、従業員1万人を超える企業にどう成長させてきたのか。~
  
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                             メーカーベンダーという新業態
  当社はモノ作りのメーカーです。従来は問屋経由で商品を卸し、そして小売業にモノを流していました。今では問屋機能を社内に取り込み、メーカーベンダーという新しい業態を構築しました。つまり、アイリスオーヤマのメーカーの商品を問屋に流さずに販売する仕組みです。ニュービジネス協議会は新事業創出を掲げていますが、当社でも常に社内の中に新事業を創出しています。7年前に東日本大震災が発生しましたが、当社の本社は宮城県にあり大きな被害を受けました。地元企業として被災地に対して、どんな支援ができるのかを模索しました。そこで「東北未来創造イニシアティブ」という組織を立ち上げ、人材育成道場を開きました。被災された経営者がもう一度再起するために何をしなければならないのか、という点をお話させていただきました。合宿も行い事業構想を半年かけて実現できる体制にしていきました。
  
                             著書・「ユーザーイン経営」
  年間売上高500万円の会社から今年は5000億円を目指す会社になったこれまでの歩みを、自らの経緯を振り返りながら解説しているものです。
  この中で、起業家の条件を説明していますが、これは人材育成道場として最初に取り組んだものです。53年間社長業をやってきて、その中のエッセンスを書きだしています。
  
                             「快適生活を支援する」をコンセプトに
  「アイリスオーヤマ革新の軌跡」について、養殖用ブイからスタートし、家電製品やシーリングライト、炊飯器など当社の商品は多岐に渡ります。このほかにも、ガーデニングや収納用品、LED照明もあります。一見すると何屋さんですかという事になりますが、儲かるから何でもやるのではなく、そこにはしっかりとしたコンセプトがあります。そのコンセプトとは「快適生活を支援する」という事です。すべての商品にキーワードストーリーがあり、そのキーワードからストーリーをつくり商品化。お客様の手に届くまで我々がフルサービスをしています。代表的なものを紹介しますとLED照明があります。これは6年前の計画停電をきっかけに一気に生産・販売体制を整えていきました。これは何よりもユーザーインで考えると節電すればよいのです。これまでは電気が豊富で安かったので無駄遣いをしていました。LED照明と一般の電球を比較すると電力消費量は10分の1になります。これにより当社は3年連続4回の省エネ大賞をいただきました。また復興支援ということで、震災後2年間は復興特需が続き、工事が終わるとゼロになります。そのために東北の強みである雪国の寒いところで採れたおいしいお米を活かし、お米の販売も行いました。
  
                             2022年めどに売上高1兆円に
  数字で見るアイリスグループの強みについて、昨年はグループ売上が4200億円。今年は5000億円の計画です。先日、マスコミに取り上げていただきましたが、7月に社長業に幕を閉じます。私の息子が社長になり私は代表取締役会長として、皆さん方と交流する機会を増やしていきたいと考えております。先行きの展望として2022年には1兆円の売上高になる環境を整えています。なぜここまで増やせるのかという解説をします。商品点数は2万点あり、新商品比率は売り上げの62%を占めています。新商品とは発売後3年以内と位置付けており、常に新商品を出し続けることが大切です。この40年間は経常利益率10%を維持しています。工場については海外にも工場を作りますが国内にも作ります。昨年11月に広州に工場を作りました。韓国には今年の12月に予定しております。また、パリの郊外に工場を作ります。労働環境の事などを考えると、なかなかフランスに工場を作る会社はありません。一気に国内外7拠点の工場が整う事になります。すべてが完成すると8000億円の売上高になる予定です。
  
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  私は高校3年の時に父親が癌にかかりました。当然、進学はできません。兄弟は8人兄弟で、小さな工場で生計を立てていました。53年の経験から想定外という事が何度もありました。実は10年単位で想定外が起こるのです。私の第一の想定外はオイルショックです。そしてバブル崩壊、リーマンショックがありました。
  
                       19歳で家業を継承「すべてにイエス」⇒儲かる仕事を選別
  当時を振り返ると、継承直後は学生を卒業したばかりでしたが、小さくても会社なのです。商売には売り上げがあって、回収、会計などを行いながら経営が成り立つものです。請求書の作り方も分かりませんでした。父親は43歳で亡くなり、ノウハウは受け継がれなかったのです。それが19歳の時です。しかし、考えてみると真っ白だったのが良かったのかもしれません。そこで私は小さくても強みがなくてはいけないと感じました。では強みとは資金力、営業力、技術力、人材力などがあります。しかし何もないのです。ただ、私の強みは何なのかというと19歳という若さが強みでした。そこで何をしたのかというと、すべてイエスからスタートしたのです。下請けですから。当時は儲からない仕事や納期がかかる仕事、面倒くさい仕事を笑顔でもらう訳です。朝の8時から夜の8時まで仕事をしていました。1カ月に2日位の休日でした。私はみんなが帰った午後の8時から自分で機械を動かしました。規模が小さかったからよかったのですが、夜なべをして生産し、朝ご飯を食べて、お客さんに電話をしてから少し仮眠をとる。こんな生活を1年間ほど送りました。作り手にアドバンテージがあるとお客さんは選んでくれます。何でも喜んで仕事を受けてくれるというイメージをつける。こうした流れで1年・2年で仕事が増えてきました。儲からない時期もありましたが、少しずつお客様を選別し、そして儲かる仕事は受け、儲からない仕事は断るというスタイルに転換。歯車が上手く廻りだしたのです。ただ、私はこのまま下請けで終わりたくないという考えを持っていました。
  
                       「メーカーになる」 競合が少ない分野に入り込む
  メーカーである以上、自分で作ったものは自分の値段で自分の意志で値引きができないとメーカーではないのです。これが21歳から22歳の時の想いです。小さくてもいいからメーカーになることが大事という考えです。ただ、大きくなるのではなく、自分の身の丈に合った開発を行うことが重要なのです。大切なことは競争の少ないところで、例えばオリンピックでいえば、メジャー競技ではないものを選ぶように、見向きもされないところからスタートしていくのが狙い目だと考えます。
  
                             「ピンチがビックチャンス」
  ここで一つ振り返りますとオイルショックがあります。プラスチックを原料にしていたので、原油価格が高騰しました。その後、32歳の時に債務超過に陥りました。このまま行ったら会社は持たない。会社をたたもうと思い、新幹線に乗って大阪へ帰ろうとして家に向かいましたが帰らずに、そこで考えたのが新しい工場へのシフトです。今まで何を信じてきたかというと、製造の基本はいいものを安く売る事です。しかし、勝利の方程式ですが業界がなくなったらダメなのです。結局はそういう意味で言うと10年単位で想定外のことが起こるという事です。当社の企業理念に「会社の目的は永遠に存続する事。いかなる時代環境においても利益の出せる仕組みを確立する」と謳っています。今まではシェアナンバーワン、ブランドナンバーワンという戦略だったのですが、結局、自分がやってきたことが想定外になると崩れてしまうのです。立ち位置を変えようと考えたのが、マーケットインです。お客様のニーズに合わせてものを作るというものです。大阪の工場を閉め、宮城に本社を置きました。宮城にはマーケットはありませんでした。宮城から東京のマーケットに、モノを送って勝てるわけがありません。何もない。しかし、これが「ピンチがビッグチャンス」になったのです。まずは社員を雇用するのが一番。しかし下請けするものもなかった。そこで自分の強みを活かし小さくてもいいから事業を創造するしかありませんでした。売り上げやシェアではなく、お客様が気づいていない潜在需要を掘り起こすことに注力したのです。これが「需要創造」です。
  
                             園芸、ペット分野にも参入
  当時、帝国データバンクに掲載されている140万社の企業データを半年間かけて分析を行いました。収益性が高いか、将来性があるかなどを分析。そこで着目したのが園芸です。当時の園芸は種屋です。植物特性を研究し育ちやすい育苗箱を研究しました。
構造を変えることで素焼きに近いプラスチックの植木鉢を作りました。これがイノベーションです。このほか、ペットブームにも火を付けました。ペットを家族の一員として育てる家族が増えたことから「ペットはファミリー」を位置づけペット用品に参入しました。木製だった犬舎をプラスチック製にして販売。使い手というキーワードで事業を創造しました。
  事業創造ではほかにも、春先の話で、海釣りに出掛けるため、セーターを探しました。押入れにある箱を次から次へと開け、服が床に散乱してしまいました。そこで、中身が見える透明な衣装箱を作れば喜ばれるのではと思いました。これが、しまう収納から探す収納です。常に生活者の目線で何がいるのか。うちでは作れないので原料メーカーと相談し、原料から一緒に開発しました。いくら作っても間に合わないので北海道から九州まで工場を作りました。小売業は立地産業です。ほかと差別化する事。コピーは必ず出るので新商品を出し続けるのです。守っていたら次のアイデアは出ません。そして次のビジネスチャンスに手も出せなくなります。
  
                       「ユーザーイン」 事業創造 ユーザーの要望に応える
  次にアメリカ市場に目を向けました。しかし、アメリカは収納というニーズがありません。そこで探すというコンセプトで考え、それが靴を入れるケースです。日本では売れませんがアメリカでは売れて靴屋のショーケースのような光景です。売れだすと必ずコピーが出てきます。競争が激しくなるとダメになるという事です。常にユーザーインで事業を創造する事が最も重要です。最近、当社は変わりつつあります。家電の販売量が増え家電メーカーに変わったのではと言われるほどです。家電製品は常にユーザーインです。そして、なぜ売れるのかというと使って便利だからです。「こんな家電があったらいいのに」という発想です。開発者にはわからない事です。効率の良くない仕事を効率良くするのが一番のビジネスチャンスと感じます。トレンドを見ながら事業を創造していく。みんながやりたい仕事は過当競争になります。当社はグループで1000台のロボットが動いている。まさに先端を行っています。面倒くさいことをいかに機械に置き換えて人間でなければできないところに集約する。インターネットにはレビューがある。買ったお客さんが評価をしてくれる。マーケットがいらない時代です。それを見ながら改善していけばよいのです。革新的な商品がないとうまくはいきません。
商品やサービスにはユーザーインの消費者目線が大切です。
  
                             会社が良くなる=社員が良くなる
  当社では労使の分野で賃上げ・ボーナスで対立したことはありません。企業理念の第3条で「働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり」を行っています。人事評価に時間とお金をかけています。また幹部社員には決算賞与として営業利益の還元も積極的に行っています。
  
大山氏 略歴
  19歳で家業を継承 大山ブロー工業所(現アイリスオーヤマ)代表に就任。
工場を国内9カ所に建設。1992年アメリカ、1996年中国、1998年オランダなどに現地法人を設立している。現地生産、現地販売で事業を展開し、地方から世界で展開するグローカル企業に成長させ、現在に至る。
  
著書「ユーザーイン経営」(非売品)
  若くして父親を亡くし、19歳で家業を継いでからの人生を綴っており、その中での経営道及び起業家の条件を解説している。中でも「ユーザーイン」を掲げ、ユーザーの要望に応える。そして利益を出すためには、常に新商品を開発し、利益が出なくなった市場から撤退する事が必要。

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