第9回(2022年度)定時会員総会のご報告
群馬ニュービジネス協議会 第9回(2022年度)定時会員総会
令和4年5月26日(木)
特別講演:『中国、ロシア、日本を取り巻く国際情勢について』
講師:朱 建栄 氏
東洋学園大学グローバル・コミュニケーション学部教授
いま世界では、ロシアによるウクライナへの侵攻、新たな米中の対立など国際政治、外交などにおいていろいろな動きがあるけれども、根底にあるのは、「経済と技術の競争」であるといえるだろう。アメリカは非常に戦略的な国であり、それゆえに100年以上の間世界ナンバーワンの地位を維持してきたのだが、これまでになく中国の台頭に危機感を持っている状況だ。これを念頭において世界情勢を考える必要がある。
いまはまさに「第4次産業革命」の時代だ。18世紀以降、水力や蒸気機関による工業の機械化が起きた第1次産業革命。20世紀初頭、電力を用いた大量生産が始まった第2次産業革命。1970年代初頭から電子工学、情報技術、オートメーション化による第3次産業革命。この第3次産業革命では、実は日本が世界をリードしていた時期もあった。今はさらにIoT、ビッグデータ、そしてAI(人工知能)による技術革新の時代だ。その「第4次産業革命」の時代を迎え、世界は100年未曾有の転換期を迎えている。
イスラエル・ヘブライ大学のハラリ教授は『ホモ・デウス』という著書の中で「データ至上主義」という言葉を唱えた。これによれば、自由資本主義と共産主義は、対立するイデオロギーではなく、本質的には“競合するデータ処理システム”だという。資本主義は分散処理を利用、共産主義は国家経済による集中処理なのだ。これから先、データ処理の条件が変わっていけば民主主義さえ衰退していくかもしれない。選挙制度や政党など従来の制度が廃れ、政治家の力はますますなくなっていくかもしれない。
そんな中で、米中の競争はこれからの10年の世界を左右するだろう。中国のGDPはドル換算で21年末時点でアメリカの77%、日本の3倍以上にもなった。購買力平価でいうとアメリカの120%以上である。5Gという先端技術において中国は長期戦略で育ててきた。今世界で一番5Gの特許を持っているのは中国のファーウェイ。3番目も中国のZTE。この全10社の中には日本もアメリカも1社も入っていない。こういうところでアメリカはやはり焦燥感、危機感にあおられ、今後いろいろな形で揺さぶりをかけてくるだろうが、中国は毎年自国のGDPが1.5%を上回れば2030年までにアメリカに追いつけると息巻く。そのために、その間はアメリカとの直接対立を避けるべく、柔軟に立ち振る舞っていくだろう。過去にも中国はそうしてきた。大国のしたたかさ、しなやかさを知っておく必要がある。
では日本はこれからどうすべきか。経済同友会前代表幹事小林喜光監修の本『危機感なき茹でガエル日本 過去の延長戦に未来はない』によると、日本は①守りの意識が強すぎる ②自ら作った壁に縛られる ③コンセンサス主義は「民主主義」ではない、と分析。携帯電話やATMに見る技術の「ガラパゴス化」では日本経済は失速の大損をしている。コンセンサスを重視するあまり経営判断がスローになりビジネスチャンスを逃している。若手起業家には耳の痛い話ではあるが、経済成長への執着心・ハングリー精神を持って、世界に向けスピーディにチャンスをものにしていって欲しいと思う。
ここ群馬県でも優れた技術が多数あることを知っている。米中対立、さらに中国の発展をチャンスととらえ、ニュービジネスの一環として新しい可能性を一緒に討論できたら私も光栄である。